妄想代理人

妄想代理人(1) [DVD]
傑作サスペンス「パーフェクト・ブルー」以来、一貫した作風でクオリティーの高いアニメーションを
世に送り続けてきた今敏監督の最新作。私の知る限り、初のTV作品(WOWOWだけど)。

内容を一言で言うなら、「現代」という病に冒された人々と、「妄想」によって機能する社会の物語。

一躍ヒットデザイナーに押し上げられ、人々の期待と羨望に押しつぶされそうな少女。
小学校の人気者から、ふとしたきっかけでいじめられっ子に転落した少年。
生真面目な女教師と、奔放な売春婦の二重人格に苦しむ女などなど…

毎回違った主人公の視点で語られるのは、滑稽で愚かしく恐ろしい「現代」の戯画。
日常に追い詰められ、行き場を失った彼らの前に現れるのは、「少年バット」という名の
正体不明の通り魔です。

黄金のローラーブレードと野球帽に身を固めた少年の姿で、ねじくれた金属バットを振り上げ
次々と犯行を重ねる「少年バット」。

事件はやがて、人々の噂のネットワークに乗り、現実との境界を越えた都市伝説的な広がり
を見せていきます。

果たして「少年バット」は、暴力によって救いをもたらす「救世主」なのか?
それともただの「妄想」なのか?

もともとリアルなキャラクター描写や、現実と幻想の錯綜するシーンに定評のある今監督ですが、
この作品は特に、監督の持ち味が(良い方向に)発揮されたものになっています。

「少年バット」という、ビジュアルシンボルがある点や、飽きのこない連作短編形式である点。
そして、「現代」をリアルに描きながらも、コミカルな雰囲気を取り入れている点が、
娯楽作品としての完成度を高めているのではないでしょうか?

千年女優」「東京ゴッドファーザーズ」と、「渋さ」に拍車をかける今作品に一抹の不安を
感じていた私としては、久しぶりに他人に薦められそうな一本です。